七福神の殺意
第2章 第一章
今まで、太公望でにぎわっていた小さな青島の漁港はたちまち警察官で埋め尽くされた。
釣りどころでは無くなっている。
今までの太公望は、野次馬に早変わりしていた。
死んだ男の名前は車に残っていた免許証から、中村誠次五十八歳ということが分かった。
死因はすぐに判明した。
青酸カリによる中毒死であった。
毒物にも色々あるが、通称青酸カリ、と呼ばれる毒で死んだ場合、体に紫色の斑点が現れる。
亡くなった、中村誠次の体にも、その斑点が現れていた。
辺保恭介は、警察に電話をした本人であり、又、中村誠次が最後まで話していた、ただ一人の人間であったが、それは警察には言わなかった。
恭介は、面倒に巻き込まれるのが嫌だったのだ。
それが、帰って恭介をこの事件に深く関わらせることとなった。
警察は、この波止で釣りをしている、太公望達に事情聴取をしたが、その大半は、警察が来るまで何があったのかは知らなかった。
近くにいた何人かが、恭介がこの男と話をしながら、ジュースを飲んでいたところを見ていた。
恭介は、結局所轄の警察署まで行って、詳しく調べられることとなった。
辺保恭介は、宮崎南署の小さな取調室に座っていた。
向かい側には、眼鏡をかけたインテリタイプの男が座っている。
男は罫紙を机の前に広げていた。
側に若い屈強そうな男が立っていた。
目の前の刑事が口を開いた。
「とりあえず、今から、事情聴取を行うから。」
目の前の眼鏡の刑事は、罫紙から目を上げずに、抑揚も感情もない声で言った。
「名前は?」
「辺保恭介。」
「どんな字を書くんだ?」
「底辺の辺に、保険の保で、へんぼと読みます、恭介は共の下に小と書き、すけは、吉良上野介の介です。」
「住所は?」
「大分県、大分市xxxxです。」
「大分?それが又何で、あんな所に?」
「釣りキチは、魚が釣れるとなると何処までも行きますよ。」
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