梨乃3 痴女編
第8章 8
自宅の後ろにある狭い庭は、隣接した家にびっしり囲まれて薄暗く、太陽がほとんど当たらないものだからなんだかカビくさかった。
木の柵のすぐ前にひらべったい大きな石が埋もれており、その上になにやら小さな機械が置かれている。
梨乃は覗き込むように、その前にひざまづいている。
小さな機械とは、ICボイスレコーダーである。本間健二たちが梨乃を脅して肉体関係を強要する様子がしっかりと収められたものである。
梨乃は右手に大きな金づちを持っている。
父の仕事道具を勝手に持ち出したものだ。
それを何度も振り上げては、ゆっくりと下ろし、ため息をついている。
狂っている。
梨乃は、自分がそうであると思っていた。
本間健二たちとの繋がりを望んでいる?
そう、自問してしまうことに関して。
どうだかは分からないが、本来望むはずもないこと、人間として望んではいけないことを、どうなのだろうかと自問している段階で、もう充分に狂っている。
望んでなんか、いるはずがない。
毎日毎日、脅迫されて強いられるセックスなど。
誰が、望むものか。
でも、
それなら何故、
彼らとの繋がりを断ち切ることの出来る証拠となるものを、こうして壊そうとしているのか。
いや、壊そうだなんて、そんなことするはずがない。
するわけがない。
もう、終わりにするんだ。
あんなこと。
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