梨乃2 混沌編
第9章 9
床に残されてくるくる回っている布切れも、やがて風にさらわれて消えた。
「じゃあねえ」
持田はそういうと、横たわる梨乃にくるりと背を向けた。
三人は、こうして屋上から姿を消した。
それからどれだけの時間が流れたであろうか。
太陽はほとんど地平線の向こうへ隠れて、ぼーっと明かりを放ってはいるものの、東の空はもう真っ暗で、既にいくつかの星が瞬いている。
全裸で大きく股を広げたまま放心状態になっていた梨乃であったが、ようやく目に光が戻り、ゆっくりと立ち上がった。
よろよろと、フェンスのそばに近寄り、立った。
眼下には遠く、街のほのかな明かりが見えている。
つう、と頬を涙が伝った。
凌辱を受けたことや、服を切り裂かれて身にまとう物を失ってしまったためであろうか。いや、それが涙の理由ではなかった。
そんなことはどうでもよかった。先生や生徒に全裸を見られようと別にいまさら構わない。
梨乃の涙は、単純に罪悪感のためであった。
しかしそれならば、そもそも何故、こんなことをしてしまったのか。
持田のいう通り、確かに他人の一生を、自分は目茶苦茶に破壊してしまったのだ。
そう思ってみても、もう遅い。
すべてが、遅すぎた。
ほとんど日の暮れた屋上で、梨乃は全裸のまま自分の胸を抱くように立ち、いつまで寒風に吹かれていた。
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