梨乃2 混沌編
第2章 2
「そうしたら、吉田の奴がさあ」
「ええー、そうなんだあ。吉田君がねえ」
高橋武が喋っているのを、木村梨乃は相槌を打ちながら聞いている。
普段と変わらぬ教室の喧騒。
追いかけっこをしたり、プロレスごっこをする、子供のような男子たち。
恋愛話やアイドルの話に興じる女子たち。
いまは三、四時限間の、休み時間である。
梨乃が高橋武とこのように話すようになったのは、いつからだろうか。
先日、席替えをした後からか。
それに間違いはないが、でも、直接のきっかけではない。
高橋武が、同じクラスの彼女である持田栄子とちょっとした冷戦状態であると聞いたこと。
それが直接のきっかけだ。
梨乃自身、はっきりそうであると確信を持っているわけではないが、最近の最低最悪な自分を分析するに、いや、分析などするまでもなく、そうに決まっていると思っていた。
日が経つごとに、また梨乃の中で、悪い虫が育っていた。
殺虫剤で殺せるものなら撒き散らして殺したい。そんな、自分でも嫌で嫌でたまらない、悪い虫が。
それがサナギになり、成虫としてウカするのに、時間はかからなかった。
休み時間も終わる頃、梨乃は囁くような声で高橋に、一緒に帰らないかと声をかけた。
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