唄う鳥・嘆く竜(前編)
第11章 【 旅立ちの日 】籠の鳥~カトライン~その1
その後の記憶はクラウスには朧気だった。
ただ、「私が雇った以上、誰にもお前には手を出させないから安心しろ」と、言質をとったところで張り詰めていた緊張が解け、気が遠くなった事だけは覚えている。
それでも自分の成り行きが何処にいくのか知りたくて、遠くなる意識の中でも周囲に感覚を張り巡らせる。体は動かないが、しばらくは意識だけはあった。
閉ざされる瞳の中に困った表情のカトラインが写っていた。彼女は軽い荷物を背負うかのようにヒョイとクラウスを背負った。
同じような背丈で、腕や足は同じくらいの太さに見えていたが、背負われた感触は硬くクラウスでは比較にならない程の筋力が秘められていることを感じた。
彼女の元に居れば、少なくとも理不尽な目には合わないだろう。クラウスの勘がそう囁いている。
背負われ移動する間、ライムントや他の男が何かをカトラインに訴えていたようだったが、軽くあしらわれ彼らにその身を委ねられる事は無かったから、自分の感は間違ってはいなかったと確信した。
安心すると意識に泥のような拭っても拭いきれない重いものにまとわつかれ、意識は闇の奥底に引きづりこまれていった。
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