唄う鳥・嘆く竜(前編)
第10章 【 旅立ちの日 】 籠の鳥 ~ ライムント ~その2
この男ならばやりそうだ。
人の嫌がる荒っぽい行為が好きだという事は知っていたが、それ以上の事も好んでいるようだ。
拷問やそれ以上の事にも慣れているのだろう。
ただでさえ、クラウスが逃げたことに対しての報復を考えていそうだ。
何かと理由をつけて、クラウスを痛めつけ嬲ろうとするだろう。
…もう、おれはダメかも知れない。
クラウスは死を覚悟した。
脳裏を酒場で別れたウォルフの姿が横切る。
…約束守れなかった。ごめん。ウォルフ。
…最後に、もう一度逢いたかったけど。
…でも。もう無理だ。
クラウスは目を閉じ、男達の暴力に身を任せた。
死ぬ時には苦しい時間が短いことを祈りながら。
朦朧とした意識の中、ドアの開く気配がし、人が入ってきた。
「何をしているんだ。お前達は」
静かだが有無を言わせない力強い女性の声が聞えていた。
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