唄う鳥・嘆く竜(前編)
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発行者:行之泉
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ジャンル:ファンタジー
シリーズ:唄う鳥・嘆く竜

公開開始日:2010/07/17
最終更新日:2010/08/08 22:41

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唄う鳥・嘆く竜(前編) 第8章 【 収穫祭 】 夜に啼く鳥 ~ デーゲンハルト ~ その4
 夜明け前。闇がもっとも深まる頃。
 何かを感じてクラウスは目を開けた。
 夜更けの何処までも静かな静寂の中。
 視界は薄暗く部屋の中の輪郭が見えるのみ。
 クラウスは目を開けても、まだ夢の中をたゆたっているような気がしていた。
 現実感がない。心地よいが強い疲労感が全身を包む。
 体の心は甘く痺れていて、デーゲンハルトを受け入れていた場所は彼が入っていた名残を残す。
 頭の中をさっきまでの甘い交歓が蘇り、全身に広がり膨れ上がった甘やかさを色のついたため息で散らす。
 このまま夢の世界に引きずり込まれそうだ。
 目を閉じかけ、クラウスの隣には人の気配がない事に気がついた。
 シーツの中を確認するように手を伸ばすと、仄かに温かく。人がさっきまでそこに横たわっていた事を示していた。
 もしかして…デーゲンハルト。もう出ていった?
 一瞬にして頭が鮮明になる。
 ガバッと勢いよく起き上がると、部屋の奥がほの明るい。
 目を凝らすと小さなランタンの明かりだけで、身支度を整えたデーゲンハルトの姿が確認できた。もう出発してもおかしくない姿だ。
 挨拶もなしで別れるなんて、哀しい。そうクラウスは思っていたから、ホッと胸を撫で下ろす。
 人によっては哀しい別れをしたくないばかりに、人知れず居なくなる事も少なくない。
 でもクラウスは出会いと別れを繰り返しているから、別れ自体は日常の事だった。
 旅をする者同士でもまた偶然が重なれば再会できる事を経験をもって知っている。
 反面、毎年会えると思っている定住者の人たちの中で、一家離散の目に合い遠くに旅立って会えなくなったり、病で亡くなり永遠に再会する事もできない事だってある。
 自分自身の手でどうにもならない時の無常さを知っているから。
 別れの場面に居合わせるのなら、きちんとした形で再会を望む希望ある別れにしたいと思っている。
「もう行かれるのですか」
 声を出すと、思いのほか情けない声になった。
 別れたくないと、未練がましく思っている気持ちが表れている。
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