唄う鳥・嘆く竜(前編)
第6章 【 収穫祭 】 夜に啼く鳥 ~ デーゲンハルト ~ その2
クラウスはデーゲンハルトの体に自分の体を沿わせると、うっとりとした視線を彼に投げかけた。
「収穫祭の夜です。二人で愉しみましょう」
「クラウス殿…」
困惑の色を含んだ声でデーゲンハルトはクラウスの名を呼んだ。
上目遣いでクラウスは彼を見つめ、彼の唇に指先をあてる。
クラウスは眉根をひそめ、薄く寂しそうに見える微笑を浮かべた。
「そんなよそよそしい呼び方は止めてください。クラウスと呼んで」
ささやかな願いにデーゲンハルトの困惑が解ける。
優しく包み込むような微笑を浮かべると、屈み込みクラウスの耳元で囁く。
「では、クラウス。私の名も敬称をつけずに呼んでください」
「ええ。デーゲンハルト」
瞳を合わせ微笑み合う。
デーゲンハルトの顔が近づきクラウスは薄く目を閉じた。
軽く啄ばむように軽く、くちづけを交わす。
何度も。
何度も。
与えられる優しいキスに安心し心地よさを感じる。
だがもっと激しく奪って欲しいという思いも同時に沸き起こる。
体の奥で小さな欲望の炎が灯った。
まだ子供騙しのようなふれあいなのに、まるで思春期の時のように強く反応した事にクラウスは自分でも驚いた。
思い起こせば久しぶりの行為だ。
長旅で疲れていた上に、最後の大きな峠では強盗団に襲われた。
暴行され監禁されたが、数日後には彼らの隙を見て何とか逃げ出した。
だがその後が大変だった。
暴行によるダメージを癒すのに、丸々一月はかかった。
頼る人などいないから、旅に暮らす人が使ってもよい山中にある無人の小屋で二週間は暮らした。
生活用品はそこでそろっている。
だが食料は自分で調達しなければならない。
クラウスは体調をみつつ山や川で食料を調達した。
その後、旅に戻ってもいつもの調子にはなかなか戻れなかった。
いつもの旅に戻れたのは先週辺りからだ。
もしかしたら旅の途中に機会はあったかもしれない。
でもクラウス自身そんな気になれなかったし、収穫祭の夜を楽しみにしてきたのだ。
今日という日に期待が高まっても仕方のないことだと思えた。
42