唄う鳥・嘆く竜(前編)
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ジャンル:ファンタジー
シリーズ:唄う鳥・嘆く竜

公開開始日:2010/07/17
最終更新日:2010/08/08 22:41

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唄う鳥・嘆く竜(前編) 第6章 【 収穫祭 】 夜に啼く鳥 ~ デーゲンハルト ~ その2
…父さんと旅していた時には、時々こんな気持ちになったっけ。
 憶えた唄を忘れないように、久しく唄わなかったを唄うように言われることは度々あった。
 クラウスが忘れていたら。困ったような苦笑をして静かに根気よく教え直してくれた。
 懐かしい父親の姿が脳裏に蘇ってきた。
 あの頃は世の中のことを何も知らない子供だった。今は…今の自分を見たら父はどう思うだろう。あまり褒められた行状ではない事は判っている。そう思ってクラウスは自嘲気味に笑った。
 でも父は今際の際に望んだ事は少ない。「思うままに生きてくれ」と、それだけを願ってくれた。
 自分自身が安心して生活できる事が一番だ。
 そう思うと、今の道も悪い選択ではない。
 ちょっと困った顔するかも知れないけど、「まぁ。仕方ないか」と受け入れてくれそうな気もする。 そんな大らかな部分も持っていた人だった。
 父を思いながら、同じような年齢のデーゲンハルトを眺めると、彼は考え込むように俯いていた。
 少しして閃いたような明るい表情で顔を上げる。
「では、『嘆きの竜』を…希望を言ってよければ、さっき最後の唄から聴きたいですが…」
…良かった。得意中の得意な曲。
「ええ。もちろん構いませんよ」
 クラウスは心からの満面の笑みでデーゲンハルトの言葉に答えた。
 得意な曲を唄うと、いつもの調子が戻ってくる。
 デーゲンハルトはクラウスが唄っている間、愉しそうにそれを聴いていた。
 クラウスが唄っている間に、デーゲンハルトは部屋の棚の中から足付きの酒杯と酒瓶を取り出した。
 クラウスと自分ように注ぎ、干した果物や木の実の入った器をテーブルの上に出した。
 曲が終ると酒と器の中のつまみを勧める。
 クラウスが酒杯を持ち上げると、酒場でやった時と同じように古風な作法で乾杯をした。
「素晴らしい。心に染みる歌声です」
「お褒めいただきありがとうございます」
 素直に心から出た言葉と判る褒め言葉。
 クラウスは形式的に応じながら、とても嬉しく感じた。
 自分の唄を客に喜んでもらうのが吟遊詩人にとって一番の喜びだ。
 この仕事をしていて良かったと純粋に思った。
「唄の内容はさっき話をした通り、一番よく聞く唄とは違いますね」
「そう…みたいですね」
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