唄う鳥・嘆く竜(前編)
第4章 【 収穫祭 】酒場にて ~ ウォルフ ~ その3
でも正直、ウォルフとそういう関係になるのは想像できなかった。
想像できないという言うと語弊がある。
お互いが初体験の相手だからだ。
だがその時二人の間に色っぽい感情があったかというと不明だ。
祭り初参加にして、目ぼしい相手が見つけられず余ったもの同士、興味本位でじゃれ合った。
それが真実に近いとクラウスは思っている。
だが、お互いが初体験だったのが仇になり、その夜は散々だった。
じゃれあっているうちにウォフルが本気になり、彼の暴走した欲望を半ば強制的に受け入れさせられたからだ。
今であれば若いからしょうがないと苦笑いですむが、その時のクラウスは慎重に旅をしていたから、暴行にあった事もなかった。
だから受けた衝撃はかなり強いものだった。
事が終わった後、夜が明ける前にクラウスは激怒しその場を立ち去った。
その後は他の酒場で年上の妖艶な女性と出会い、めくるめく享楽の世界を知る事になる。
彼女は寝物語にようようの知識をクラウスに与え、祭りが終る頃にはウォルフに対する感情も穏やかになっていた。
祭りの終わりの日にクラウスはウォルフと再会し、ウォルフが心から謝罪した事で彼との友情は続いている。
でも…今日はこのまま別れるのが惜しかった。
もっと一緒にいたいと思う。友人として語らうだけでもいいから。
いつのまにか彼の存在に依存しかかっている自分に気がつき、クラウスは首を軽く振り思いを払う。
いや。そんなわけにはいかない。
何甘えた事を考えているんだ。
ウォルフには相手がいる訳だし相手にされないだろう。
祭りに参加する最大の理由は安定した生活への足がかりになる人と出会うためだ。
これを肝に銘じて行動しなくては。
それよりも、この件に関してはウォルフの耳に入れておかなくてはならない事があった。
クラウスは思い出し口を開いた。
「それよりさ。風の峠。ヤバイよ。元々、夜盗の出る場所だけどさ。今は特に凶暴で残虐なヤツがまとめているから」
「凶暴?強盗するくらいだから凶暴なのだろう」
柔らかい声でウォルフが応じた。
「何っていうか…おれよくは判らないけど。前はもう少し甘い半端ものの集団だったような気がするんだ。でも今のヤツ等は違う。首領ってヤツが元傭兵なんじゃないかって思うんだ。あの歪んだ荒っぽさってのは独特だからね」
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