唄う鳥・嘆く竜(前編)
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発行者:行之泉
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ジャンル:ファンタジー
シリーズ:唄う鳥・嘆く竜

公開開始日:2010/07/17
最終更新日:2010/08/08 22:41

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唄う鳥・嘆く竜(前編) 第4章 【 収穫祭 】酒場にて ~ ウォルフ ~ その3
 やられたなんて言い方では表現できない。
 腕が立つ訳でもないから暴力を防ぐ事なんて出来なかった。
 逃げる機会をうかがって、賊から受ける暴行に抵抗する事なく、甘んじて受けた。
 痛みを感じれば体をかばうような行動は取ったが、殴られ蹴られ犯されても本気になって歯向かうような事はしなかった。
 集団での暴行を避けるため、クラウスは賊の首領を誘惑して隙をつき、吟遊詩人の命である竪琴だけを持って、命からがら逃げ出したというのが事実だった。
 その後、放浪の民は利用する山小屋で傷ついた体を癒して旅に戻ったのだった。
 ふいに、集団で囲まれ暴行を受けた、あの時の恐怖が蘇った。
 無意識に全身が細かく震えだす。
 平気な表情を保つ事が出来なくなって、クラウスは肩を落とし俯くと両手を握り締めた。
「クラウス」
 ウォルフが静かに名前を呼び、クラウスの手に自分の手のひらを重ねた。ウォルフの大きな手がクラウスの手を包み込む。
 元気づけるようにギュっと握られた。
 ウォルフは黙ったまま、クラウスの震えが納まるまで、そのままでいた。
 言葉ではなく態度で慰められ、クラウスの心が温かくなる。
 大きな手に包まれて安心する。
 守られていると感じる。
 少なくとも今だけは、ウォルフはクラウスの心を守ってくれる。そう信じられる。
 恐怖感が和らぎ遠くなっていく。
 ようやく声が出せそうになり、クラウスは顔を上げると自嘲気味に笑った。
「大した事ない。時々はこんな目に合うんだし…俺の気の緩みが招いた失敗だから」
 軽口も口に上る。元のように振舞えた。
 握られているのは手のだけなのに、安心感が全身を満たすのを感じた。
 黙って見守ってくれる。
 辛い感情を独りでガマンしなくていい。
 久しぶりの感覚だった。
 旅する仲間がいた幼い頃。
 今は亡き父と二人で旅していた数年前。
 独りになる前は、疑う事なく、いつまでも当然あるものだと思っていた感覚だ。
 このまま彼と一緒にいたい。
 ふいに、そんな思いがクラウスの中を過ぎる。
 誘ったら応じてくれるだろうか。
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