唄う鳥・嘆く竜(前編)
第3章 【 収穫祭 】酒場にて ~ ウォルフ ~ その2
「空腹だったんだな・・・遠慮しないでいいんだぞ」
ほほえみの気配と共にウォルフの声が降ってくる。
新しく肉を乗せた皿をクラウスの前に出すと思い出したように声を上げた。
「そう言えば。俺が頼んだもの。持ってきてくれたか?」
言われて思い出す。ウォルフに頼まれていた事。
もちろん覚えていたが、不本意なものになってしまっていたので、何となく言い出しにくかったものだ。頼んだウォルフ自身はクラウスが思っているよりもこだわらないのかもしれないが。
それに不本意な結果になってしまったのには理由がある。その理由もクラウスはウォルフに告げたくないものだった。
そのためクラウスは即答できず、返事に妙な間を作ってしまった。
「・・・・・・もちろん」
「何かあったのか?」
一瞬、逡巡を悟られ、ウォルフはすぐに聞き返した。
こういう時にウォルフの勘は鋭い。
問う声は低く、ヒヤリとした冷たさを持っていた。
本人は気がつかないのだろうけど、今言わなければ、力ずくでも言わされそうな迫力がこもっていた。
ウォルフの見た事のない一面を、また垣間見た気持ちになる。
痛いことも苦しいことも嫌いなクラウスは尋問されたら、何でもしゃべってしまうようにしている。
本当の事もそうじゃない事でも、知っている知識は隠さず全て吐いてしまうようにしている。
一度嘘をついていると思われると厄介だからだ、
クラウスはいつも癖でつい言わなくてもいい事を言いそうになったが、すんでのところで思いとどまる。
「何でもないよ。そう大した事じゃないんだ。ちょっとした手違いで、思った物が手に入らなかったんだ。ウォルフに頼まれたから気合い入れたのにさ。普通の物になってしまったんだ。ごめん」
「そうか」
ウォルフは厳しい表情を引っ込めて、安堵したように微笑んだ。
「そんな事、気にしなくていいさ。お前に任せたんだ。文句は言わないさ」
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