唄う鳥・嘆く竜(前編)
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発行者:行之泉
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ジャンル:ファンタジー
シリーズ:唄う鳥・嘆く竜

公開開始日:2010/07/17
最終更新日:2010/08/08 22:41

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唄う鳥・嘆く竜(前編) 第2章 【 収穫祭 】酒場にて ~ ウォルフ ~ その1
 懐かしい香りと味。
 この酒を飲むと収穫祭にきたんだと強く感じる。
 今年は香りが良く、少し苦味が強い。後味はまろやか。複雑な味わいだった。
 少し寝かせたら上等の酒になりそうだ。
 もうひとくち味わいたかったが、気持ちを抑えて杯を置く。
 このまま飲み進めたら、一杯飲み終わる頃には、へべれけになっていそうだ。
 せっかく、おごりでご馳走にありついたんだ。
 酒は食べ物を腹に押し込んでからにしよう。
 クラウスはそう考えると目の前のパンを口に入れた。
 焼いてそんなに時間の経っていない柔らかいパン。
 ひとつを頬張ると噛む。
 数口咀嚼すると、甘く柔らかい塊は、口の中で淡雪のように消えていった。
 ふわふわの食感に舌鼓を打ちつつ隣を見る。
 いつもなら、自慢話か今年の武勇伝を催促しなくても喋り始めるウォルフが俯いていた。
 カウンターに置いたジョッキの表面を沈んだ渋い顔で眺めている。
「あんな美人を口説き落としておいて、渋い顔だな」
 クラウスがからかうように言うと、ウォルフは困ったような顔をした。
「うーん。口説いたというか…口説かれた」
「向こうの方が積極的って事か。ますます羨ましい。なら尚更、幸運じゃないか…それともああ見えて性格に難がありそうなのか」
「性格には難はなさそうだな」
 他人事のようにウォルフは返事をした。浮かれた酒場の雰囲気にそぐわない沈んだ表情。
「他に気になる事があるのか?」
 何となく判ってきた。
 ウォルフはクラウスに相談したい事があったのだ。
 あんな美人といい感じになっていて、途中で放り出すような行動をとるなんて、今までのウォルフじゃ考えられなかった。クラウス自身、自分がそんな場面に遭遇したらそうだろう。
 過去の自分たちだったら、用事があったとしても。
 短時間で用件を済ますか、また日を改めてと目配せする事が多かったはずだ。
「彼女とは昼過ぎにここで初めて会ったんだが…向こうは俺の事を知っていたみたいだ」
「勤務中のお前に一目惚れしたとか?」
「だったらこんなに憂鬱にならないんだけどな」
…憂鬱?
 彼にそぐわない言葉にドキリとした。
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