俺様王子の恋愛街道
第3章 第二章、俺様王子とフィーリーの使者
トールがドアを開けた。
「おや、トゥズラ様」
「こんにちは、トール」
おずおずとトールの背後から姿を現したのは、ウォーレンの腹違いの妹、第十位王位継承権を持つ王女、トゥズラだった。
滅多に会うことのない妹の訪問に、ウォーレンは、目を瞬かせた。
トゥズラはスカイと同じ故郷の母親を持つ。
腰まである長い髪は黒のインクを垂らしたように漆黒だった。肌の色は父親似か乳白色で、触ったら柔らかそうだ。
(って何を考えているんだ、俺は)
ウォーレンはトゥズラを見つめた。しかしトゥズラは髪と同じ闇色をした瞳をさ迷わせたまま視線を合わせようとしない。ウォーレンにとって腹立たしいことに(ウォーレンには何故かわからなかったが)、トールのそばで、立ち止まったまま、ぎゅっと両手を握り締め、俯いている。
「どうした、トゥズラ」
ウォーレンが思ったよりも優しい声が喉を通り過ぎる。
途端に、トゥズラの表情が、陽が差し込んだように明るくなった。
「ウォーレンお兄様、しばらくの間、この国を離れるって聞きました。トゥズラは、お兄様の御武運、祈ってます」
その言葉が、枯れかけた草木に与えた水のように、ウォーレンの心に染み渡り潤していく。ウォーレンは、ペン立てにペンを戻すと、立ち上がり、トゥズラの方へ歩み寄る。彼女の前で屈みこみ、ぽん、と頭を撫でた。
「ありがとう」
トゥズラお頬が紅潮する。腹違いではあるが、数多くの弟、妹がいる中で、トゥズラはウォーレンに打算を持たない唯一の妹だ。
神の愛し子。トゥズラは邪念を持たない、スタッピアの聖なる巫女として生まれてきた。
今は先代の巫女の代わりに(巫女となるのは成人するまで)、王城の北の塔で、修行をしつつ、神降ろしなどの業務をこなしている。
他の弟妹には厳しい一面を見せるウォーレンも、この妹だけには心を開いていた。七歳年下の可愛い妹だった。
「行って、らっしゃい、ませ。ウォーレンお兄様」
たどたどしい言葉さえも愛おしい。ウォーレンは心から微笑むと、トゥズラ付きの侍女を呼び、忙しくて滅多に会いに行けない妹を見送った。
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