Johann,-ヨハン-
第1章 遭遇
「アンリ・ノルベール上級学術生だね」
隊舎内の一室に通されると、隻眼隻腕の初老の男が執務机にもたれかかって言った。
「私は聖都守護隊副隊長ギデオン・デュ・ゲクランだ。昨夜起きた警備兵殺害事件について、知っていることを全て話して欲しい」
僕は彼の眼帯と左腕に視線をやる。
「驚いたかね。初対面の者は、私の姿を見て必ず驚く」
「いえ‥」 僕は慌てて顔をそむける。
「気を遣わなくてもいい。聖都を護るために負った名誉の負傷だ」 ギデオン副隊長は誇らしげに言う。
「昨夜の事件のことは、僕は何も知りません」
さっさと用件を済まし、次の講義の課題を片付けたかった。ここのところレポートにかかりっきりで、課題にはまだ手を付けていない。
「警備兵が殺害された現場に立ち会ったんだろう? 犯人の姿も見たんじゃないのかね?」
「僕が気付いた時には、犯人はもういませんでした」
「それはおかしいな。事件後に君は、犯人は1人だったと警備兵に話している。本当は犯人を見たんだろう?」
「それは‥」 矛盾点を突かれ、僕はそわそわと身体を揺らす。やましいことなどないが、僕は昔から警備隊や守護隊に対して過度に苦手意識を持っている。おそらく、あの本を読んだことが原因だろう。
「虚偽の証言はしないほうがいいぞ。監獄へ行きたくなければな」
―パチン
ギデオンが指を鳴らすと、兵士が2人、出口を塞いだ。僕を部屋から出さないつもりだ。
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