ソングライター ホシオカ ー陸奥篇
ソングライター ホシオカ ー陸奥篇
完結
発行者:武上 渓
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:SF

公開開始日:2013/12/17
最終更新日:---

マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
ソングライター ホシオカ ー陸奥篇 第4章 近江屋決行
階段の手摺りに手を掛けて、藤吉が目を開けて絶命している。陸奥と小谷耕蔵の姿は無い。表六畳に須田が仰向けに倒れて動かない。その向こうに、袈裟懸けに斬られた橋本久太夫が壁にもたれて座っている。久利坂を狙った刀が橋本と藤吉に流れたのだろう。その奥の火鉢の向こうに、坂本龍馬がそのまま座っている。中岡慎太郎の姿が無い。定説通りなら、井筒屋の屋根に這って行っているのか?
久利坂は、慎重に須田の横を通って坂本龍馬の様子を見に行った。顔を起こすと、血色の無い白い顔が苦痛に歪んでいる。須田がヒ素と叫んだ通りなら、腹痛と吐き気によるショック症状からの血圧低下で、多臓器不全を起こした事になる。
久利坂は、そっと龍馬を座蒲団を枕に横たえた。涙がスルッと流れ落ちた。リセットで消えた龍馬との日々が胸に迫って、やりきれない。だが、久利坂は職業病的強靭な精神力でそれを断ち切った。ここは殺人現場であり自分も犯行グループのひとりだ。疑われた無実の近藤勇は、首を斬られて晒された。新政府そのものが襲い掛かってくる。追う側を知っている久利坂には、この現場も状態もズサンすぎる。
「そう言えば…捜査を指揮するのは、俺の先祖か?公式記録からは抹消されたが」
ツブヤキながら、物干し台に上がる。井筒屋方向の屋根に、人影を探した。空は曇っていて月も星もない。雨もポツポツと降っている。
-こっちだ
ささやくように声がする。久利坂は柵を乗り越えて、屋根瓦を声のする方向に進んだ。
近づくと、小谷耕蔵が屈んでいて中岡慎太郎がうつ伏せに倒れている。

「橋本と藤吉は須田に斬られた。坂本さんも死んでいる。須田も死んだ。どうなってる?」
小谷は首を振った。
「岩見銀山を盛られてる。橋本久太夫の仕業だ」
岩見銀山はヒ素の事だ。
「みんな鍋を食ってる。しかも須田は食ってないぞ」
「醤油を味見した三人がやられてる。醤油差しに仕掛けが有ったな…小量注ぐと毒が混じるか…最初だけ毒が混じるか…だ」
「陸奥がヤメルと言ったのに何故だ?」
「わからん。橋本久太夫は元幕府の軍艦に乗っていた。間諜だったかもな」
間諜…当時のスパイだ。
「そう言えば…陸奥は?」
「暗殺決行の場合の段取りに沿って、白川屋敷に走った。揉み消さないと、首が百有っても足りん」
久利坂は、史実の中に居る自分を感じた。
36
最初 前へ 33343536373839 次へ 最後
ページへ 
ページの先頭へ