ソングライター ホシオカ ー陸奥篇
ソングライター ホシオカ ー陸奥篇
完結
発行者:武上 渓
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ジャンル:SF

公開開始日:2013/12/17
最終更新日:---

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ソングライター ホシオカ ー陸奥篇 第4章 近江屋決行
鍋が煮立ち、蓋から湯気が立ち昇った。心地よい匂いが部屋に立ち込める。
「…助五郎の怪我は大丈夫か?」
「別状は無い。だが藩邸は冷たい。福岡の気配りがなければ、会津も迷惑よ」
「時代が変わる。藩邸は変わらぬ事を目的とした組織だ。冷たいのでは無く、藩邸は正常に機能しちょるのさ。しかし、助五郎をこっちで引き取るとなれば、医者や治療部屋がいる。新助に手配させるか…」
久利坂は、龍馬と慎太郎の会話を須田を見ながら聞いている。制札を引き抜こうとして、幕吏に捕まった宮川助五郎の話だと理解した。須田の顔が険しくなっている。緊張では無い。格闘教官なら、戦闘に臨む時には全身の力が抜けている。何か身体に異変が起こっているのか?
「おう!鍋が煮えちょる。小皿を持て、藤吉蓋を開けよ」
龍馬の言葉で、鍋が始まった。
一座は雑談のざわめきに包まれて、笑い声が響く。須田は、小皿に盛った軍鶏を前に置いて、うつむき加減に見えた。良く見ると、脂汗が浮かんでいる。中岡慎太郎が気付いた。
「須田?どうした?箸が進んどらんぞ」
須田は黙って中岡慎太郎を見返した。この宇宙人の大佐は毒物の知識も有るはずだ。久利坂は反射的に後ろの六畳間に跳び下がろうとした。
(しかし、須田は軍鶏に口を付けていない。むしろ、須田以外全員がお代わりをしようとしている)久利坂は混乱し、一瞬遅れた。

「…ヒ素かっ~!」
叫びながら須田の抜いた刀が久利坂の座っていた場所で空を斬った。久利坂の鼻の頭に紅い線が引かれるのを見て、陸奥は、物干し台に向かって逃げた。小谷は鍋をひっくり返して、火鉢から煙を上げた。
視界が無くなり、須田の様子が判らない。久利坂は龍馬と中岡慎太郎の声がしない事に更に混乱した。殺気で抜いた刀が火花を散らして須田の斬撃を受け止める。しかし、表六畳間と表八畳間の敷居に左足が取られて滑った。倒れ込む心臓に短刀が降りてくる。このまま間違い無く絶命する。久利坂は覚悟した。

だが、押す力があまりに弱い。久利坂は軽く押し返すだけで、須田は跳ね飛んで行った。
跳ね起きて表八畳間の窓際で、須田の反撃を待った。
しかし、何の動きも無い。久利坂は慎重に障子窓に手を掛けて開いた。陸奥が物干し台に逃げる時に、裏の障子が開いており風が通り煙が消えた。
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