手のひらの上のファンタジー
第1章 手のひらの上のファンタジー
~ワニのジョルディール~
【第一話/カバさんがやってくる】
君は、ワニのジョルディールを知っていますか?
この世で一番、ワニっぽくないワニって言えば、アフリカでは、知らないものはいないくらいでした。
ワニのジョルディールは、サバンナの奥の沼地に暮らしていました。
大きくて、かたくて、平べったい体。
短い四本の手足、とんがってぶんとしなるシッポ。
ギザギザな歯と、大きな口。
すがたかっこうは、他のワニたちと同じでした。
でも、ジョルディールには、たった一つ、他のワニたちとは、違うところがありました。
それは、鳴き声です。
月夜になると、
「ジョルディール」
と鳴き声を上げるのです。
それで、いつしかみんなから、ジョルディールと呼ばれるようになったのです。
ある月夜のこと、いつものように沼のほとりでジョルディールが鳴いていると、どこかから、大きなカバがやってきました。
「やあ、ジョルディール。君の声を聞いてやってきたんだ」
「やあ、カバさん。会いにきてくれて、ありがとう」
「ところで、君が狩りをしているところは、見たことないな。君のギザギザな歯や、するどいシッポが、何のためについていると思うんだい?」
「何のためだろう? 考えたこともなかった」
「きまっているじゃないか、そのギザギザな歯は、魚や動物たちを腹いっぱい食べるためさ。
そのシッポだって、ぶんとしならせて、思いっきりぶつけてやれば、誰だってイチコロさ」
「そうだったんだね。でも、僕にはそんな気は起こらないなあ。たとえば、そうだねぇ……うんうん、そうだ」
ジョルディールは、何かを思いついたように、歯をカチッと鳴らし、カバの目の前にやって来て、
「君の大きな歯を磨くのに、僕のシッポは、なんて便利なんだろう?」
ジョルディールはそう言うと、ぐるりと後ろを向いて、緑の藻(も)がいっぱいついたカバの歯に、とがったシッポの先を近づけました。
「まった! ジョルディール。そんなことを言って、本当はそのとんがったシッポで、わたしの口を一突きして、食べてしまうつもりなんだろう? 」
「けっして、そんなことはありません。この声に誓って」
「ジョルディール。ジョルディール」
ジョルディールの鳴いている声を聞くと、不思議なことに、カバは信じてみようという気持ちになりました。
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