みぃつけたぁ
第5章 第3部
「あなた、犬に好かれる人って言われへん?」
女性はニコニコと笑顔で寺川に話しかけた。おそらく50代後半で子供たちの世話から開放されたばかりだろう。そして、子供へ向けていた愛情を今はこの子犬に注いでいるんだろうと感じた。そして、子犬がいるおかげでご主人との関係もあながち悪いわけではない。動物というのは人の心を癒してくれる存在なのだ。まあ、なかにはそんな事はないという人もいるんだろうが・・・
「ええ、ぼくも犬を飼っています。散歩している姿をみたら、早く仕事を終わらせて家で待っているあいつの散歩しないとって思ったんです」
「せやねぇ。きっと首を長くして待ってますわ」
寺川はごくさり気無く、洋子の失踪した日のことを聞いた。すると女性は洋子かどうかはわからないかと訝しげな表情をしながらポツリポツリと話し始めた。
「いつもみたいにこの子と一緒に散歩していたらね・・・ぼぉっとした女の子がフラフラと通りの向こう側を歩いてたんよ」
女性は体調が悪いのかと思い声をかけようと思ったが、突然、子犬が暴れだしたというのだった。普段は大人しくて滅多に吼えることのない犬が突然彼女に向かって吼えて、しかもすごい勢いで飛び掛ろうとしたのだ。だから、女性は必死で子犬を抑えることに集中しすぎて女の子を見失ってしまったという。
「でも、ここらへんで遊びに行くんやったらあの空き地に行ったんちゃうかな?」
と女性は、この先にある小さな空き地の場所を教えてくれた。そして「早く仕事が終わって犬の散歩ができるといいわね」と言い、可愛い子犬の散歩デートに戻っていった。
女性に聞いた通りの向こう側の小さな路地へ入り、しばらく進むと突然視界が広がり公園の名残がそこかしこにある空き地に着いた。もしあの日、洋子がここへ来たのだとしたら・・・そう物思いにふけながら空き地の柵を潜り辺りをもう一度見渡す。なるほど、ここなら子供たちが好きなだけ遊ぶスペースが確保できる。大きな木、大きな石、そして、ブランコの名残やボロボロのシーソーに砂場。大きな木は特に目を惹いた。まるで、その木の幹に引き寄せられるかのように寺川は無心に近づいていった。
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