みぃつけたぁ
第3章 第1部―始まり―
山田が母からその話を聞いたのは、洋子が失踪して2日後だった。母からの着信をみて山田は、「いい人見つかった?」「勉強、ちゃんとしてるん?」「変な趣味にばっかり力を注いじゃあかんよ」という話をするものとばかり思っていたので、得意技「スルー・スキル」を発動させようとしていたところだった。
だが、母の声は重く沈んでいて何かに怯えているようだった。
『学校ではいつも通りにみんなと仲良く遊んでたんやって』
「誰かの家に泊まってるんちゃうの?」
それも可能性として考えたそうだが、洋子のクラスメイトの家に電話をして散々確認したが誰一人として下校後の洋子の行方を知らないそうだ。彼女の親友・真希はショックで学校へ行かなくなり、クラスメイトもムードメーカーの行方が気になり学業どころではない様子だという。山田も同じく、洋子が突然いなくなるような覚えは無いのだった。いつも明るく元気で、山田が家に遊びに行くと嬉しそうにアニメの話や、はまっているゲームの話を二人で時間を忘れて話し続けたものだ。
でもね、と最後に母は不思議そうに私に呟いた。『洋子ちゃんっていつもお友達と一緒に帰ってるのに、その日だけ・・・えらい疲れた顔で一人で帰ったらしいわ』
その日だけ、親友の真希が「一緒に帰ろう」と声をかけても無反応だったという。母はあの洋子が、たった一人で帰ったということがとても不思議でならないというのだ。もちろん、山田も洋子が親友の誘いを無視して勝手に一人で帰るようなことをするわけがないと思っている。
ただ、人間なのだから、たまには一人になりたいと思う事だってあるんじゃないだろうか?
しかし、相手が洋子だけに「一人になりたい」なんて思うことがあるなんて山田が知っている洋子のことを考えたけれども、一向に想像もつかないし考えられない。
「真希ちゃんと喧嘩したんやなくて?」
『そうでもないみたい。帰りのホームルームまでは仲良く話してたみたいやで』
母はとにかく、山田も妙な趣味を持ったヲタクではあるが女であることに変わりは無いので一人で帰るときは十分に気をつけるようにと何度も念を押して電話を切った。電話を切った後、小さな声で受話器に「妙な趣味って一言多くないか?」
と突っ込んでしまった。
23