ワタシのハンカチ王子サマ
第1章 Prologue
「――…僕のこと,本当にわからない…?」
真剣な瞳でそう言われて,見詰められて,つい見入ってしまう。
だが,初対面の人間にそんなことを言われてときめいてしまう程,私は可愛い女じゃない。
五十嵐君の手を振り払い,私は背を向けた。
「遊び相手なら,他を当たって頂戴。私はあんたみたいなナンパ男になんか,騙されないんだから…っ」
お昼ごはんに買ったサンドイッチは不味いわ,訳のわからないことを言われてナンパはされるわ,今日はついていない。
バイトも無いし,こんな日は早く帰ってお風呂に入って,ゆっくり休もう。
「ただいま~…」
一人暮らしの家に帰宅しても,当然,誰も返事をしてくれないんだけれど,無意識に言ってしまうのよね…。
荷物を置いて,早速お風呂の準備をしようとした私は,大学の帰りに立ち寄ったコンビニで買ったプリンを冷蔵庫に入れておこうと,カバンを開けた。
「……」
いつもカバンの手前のポケットに入れている,一枚のハンカチ。
男の人が使っているような,深い青色のハンカチを,私は持ち歩いている。
でもこれは,お手洗い用に使う為のハンカチではない。
"お守り"として持ち歩いているものだ。
寂しい時や,苦しい時に,このハンカチを胸に当てると,不思議なことに心が落ち着くのだ。
「…と,お風呂の用意するんだった」
ハンカチをカバンのポケットに戻し,プリンを冷蔵庫に入れて,浴室へと向かう。
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