PC売り場の誘殺3(思い出編)2
第4章 PC4・明日はハワイだ・たまには酒が旨い
「信ちゃん、ご機嫌さん。ねぇ、何よその嬉しそうな顔」マスターが声をかけてくる。酒を飲んで落ち着いている様子だが、時々嬉しそうにニヤニヤする。そういう顔、客商売の人間は見逃さない。
タバコを取って口に銜えると、ハワイに行くんだとつぶやいてライターを点火。フッと吐き出す煙がご満悦。
ハワイねぇ、それだけでそんなに嬉しいかい? マスターは軽く笑って信也を見つめる。
「もしかして彼女でも出来たって寸法じゃねぇ?」
と、そう言って信也が苦笑したら拍手。やっと信ちゃんに彼女が出来たのかと、他人とは思えない親身な感じの励まし。さすがに酒を扱う客商売の人間は上手だ。
彼女じゃないよ、アイドルだよと、フッと煙を吐く信也は小さな声でつぶやく。藤本 香はアイドル、彼女じゃない、そんなの分かっている、分かっている、と心の中で輪唱。エンドレステープ。
「まぁいいよ、アイドルでも酒が旨けりゃ満足だよ」彼はマスターにニッコリ笑顔を見せ、自分の心が一瞬切なくなりかけたのを乗り切った。香はアイドルだ、分かりきった事だと念押し。
(切ないな)マスターは心の中でそう思った。そこで彼は、店内にかけるBGMを変更。強烈なド演歌。女を手に入れられない男の切ない歌。でも店内にいる客たちからは、こんな切ない曲を聞いたら酒が不味くなるだろうとブーイングの嵐。
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