STIGMA Side-Kurosaki Vol.1
第6章 5
「僕のお父さんとお母さんは、どうして僕を子供にしたのかな」
幸一はふとそんなことを呟いた。私は口元を引きしめ笑みを消した。
もちろん確信はないが、大人である私には、あの二人を観察し、幸一と話し、おおむねこうでないかという想像はできる。
「本当のところは、二人に訊いてみないとわからないが、想像はつくよ。大人は、最初からお金持ちじゃない限り、仕事してお金を稼がないと生きていけない。会社っていう組織で仕事する人が、日本では働く大人の八割くらいだろうね。それで会社によってはね、それなりの歳になったら、結婚し、子供を作って、『家庭』っていうものを守って育ててこそ仕事もしっかりできる、みたいな空気があるんだよ。特に男の人にはそういう要求があるんだ。バカバカしいし、だいぶ変わってはきたけどね。だからたぶん、幸一のお父さんとお母さんは、互いに好きでもないのに結婚し、形だけの夫婦になった。本音では結婚なんかしたくない人同士が、時々そういうことをするんだ。片方だけだと、片方をだますことになってしまうから」
幸一は私の説明を丸ごと信じているように見えた。だがこれは一つの仮説に過ぎない。
「好きでもない同士でもちろんセックスもしないし、子供ができるはずがない。だから子供も必要になった場合、養子を探すかもしれない」
「ようし?」
「他人の子を、自分達の子にすることだ。育てる人のいない子は幸一だけじゃなく世の中にたくさんいる。それ以外にもいろいろな事情で、他人の養子になる人がいるよ」
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NIGHT
LOUNGE5060