STIGMA Side-Kurosaki Vol.1
第6章 5
「お父さんは」
幸一は母のことをこれ以上私に訊くのは、よくないと判断したらしかった。
「そっちは全く覚えてない。すごく小さな時に死んだってお母さんは言ってたが、ケガの前なんだか後だか、そもそも本当に死んだのかもわからないね。離婚したのを、死んだって説明するのは、そういうのがわからない子供には、大人はよくすることだから」
つまりは実際に死んでいなくても死んだようなものだ。私は天涯孤独の身の上だ。だからこそ様々な場面で思い切った行動が取れるし、外的規範にとらわれず生きることができる。そうなってしまうという表現も可能だが、実際には天涯孤独だから無法者になるなどと言えば差別という他なく、事実はそんなことはない。幸一は、どうか。愛し愛され、庇護され依存し、規範の根源となるべき大人を、彼は誰一人持たなかった。そして現れたのが、よりにもよって私。これは運命というものだろうか。
私は幸一の手を握り、彼の目を見た。
「幸一、特に子供のうちは、親とか保護者を選ぶことはできない。でも友達は選べる。友達っていうか、つながる他人はね。私は結婚していないが、多くの人は親よりも長い時を結婚相手とかパートナーと過ごす」
「僕は……」
幸一は、伏し目になり何か思いを巡らせているようだったが急にはっとしたように頭を上げた。
「おじさん、奥さん死んだって……」
私は笑みを浮かべて首を振った。それは俗世間への嘲笑の笑みでもあった。
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NIGHT
LOUNGE5060