STIGMA Side-Kurosaki Vol.1
第6章 5
幼い頃の記憶が混濁しており、ある程度しっかりと記憶の残る頃、私が本当にそれを訊きたいと思った頃には、私の母はもう私のそばにはいなかったのだ。幸一は私の方をちらっと見た。私の言葉の妙な「含み」が気になったのかもしれない。私は柔らかな微笑みを返す。
幸一はそれ以上何も訊かず私の性器の「掃除」を続けた。私の指示なく納得するまでそれをすると、口を拭った。ころんとからだを転がし、私の横に逆さまに仰向けで寝る。そして彼は、
「うらやましいな……」
と呟いた
「ケガかかい?」
珍しく幸一の意図を全くはかりかねた私は、不思議そうにそう呟いてしまった。もちろんそんなわけはない。
「おじさんのお母さんは優しい人だったんだなあ、って思って……」
母というものをそんな一言では片づけられまい。だが幸一は生まれてこのかた母性というものから見放されて成長してきたのだ。語彙が貧困でも、何の実感もなくても、やむを得まい。私の母は……ただ、今もし生きていれば私を憎むだろう。そうとしか言えない。
「おじさんのお母さん、どこにいるの?」
と幸一はさらに訊いた。
「死んだよ。私が中学に上がる前で、幸一と同じか、もうちょい上の歳だったかな……こんなことはっきりおぼえていないのは変だね。ケガのことは小さすぎるから当たり前だけど」
これも事実だ。私は母の死の明確な記憶がない。調べればわかる話かもしれないが、それをする意味もあまり感じない。
90
NIGHT
LOUNGE5060