STIGMA Side-Kurosaki Vol.1
第2章 1
「珍しそうに見るものなんてないだろ? 幸一君の所と、ほとんどつくりは同じだろうし」
私は笑いながらそう言って、幸一の頭の後ろから手を回し、頬に手を触れ、軽く私の方に引き寄せてやる。ふっくりと柔らかな頬だ。幸一は私の意外な挙動に驚き、よろめいて私に寄りかかるようにして、肩に一瞬手を触れるも、いけないことをしたかのようにその手を離してすっと姿勢を立て直した。私の方に何か申しわけなさそうにも見える視線を送ってくる。
「でも、本が一杯……うちにはこんなの、ないです」
「ほとんどお仕事の本で、おもしろくはないよ」
私は笑いながら、幸一の後ろに回って、両肩に手を添える。逃がさない。強引さで、彼の閉ざされたこころに分け入ってみたい。今日の私はどうも性急過ぎる気がするが、もし躓いても、「隣人」である彼との関係は、十分に修復可能だ。彼は拒絶のサインを送っては来ない。あきらめ? あるいは少しは、私の「好意」に反応してくれているのか。
「……でも、マンガも……」
ああ、どうやら興味を持ってくれたらしいな。
「ああ、好きなんだよ。幸一君みたいな子供が好きそうなやつも。幸一君はマンガ好き?」
幸一はうなずいた。いいね。切り口が一つできた。
「幸一君が好きなのがあれば、貸してあげるし、まあここで好きなだけ読んでかまわないよ」
幸一の、ちらっと私を見て、すぐに逸らしてしまった視線には、期待や喜びの光が確かに読み取れた。だが戸惑いもある。なぜ、自分にこの人は、そう好意的なのか。
「でも今はちょっとね。せっかく遊びに来てくれても、一人でマンガ読まれちゃつまらないしね。後にしようか。好きなのあるかな? どんなの好きか、聞かせてくれよ」
私は幸一の肩を押し、本棚に手の届くところまで連れて行った。
コミックは中段から最下段の一部(要するに子供の手でも届く高さ)にあり、少年漫画に限っても、手塚治虫や白土三平から、現在連載進行中のヒット作品までかなりある。
9
NIGHT
LOUNGE5060