STIGMA Side-Kurosaki Vol.1
第2章 1
私の部屋のつくりは隣の幸一家と同じ構造の鏡合わせのはずだった。玄関からの廊下に沿って、右側に部屋が三つ。玄関からデスクとノートPCのある仕事部屋(実際はリビングの座卓のデスクトップを使う場合が多かった)、私の寝室、そして今日の幸一に見せるには早く、いずれは導き入れたい特殊な部屋、と続く。
廊下を挟んで、玄関から左手はトイレ、風呂、その隣が和室で、物置のようになって整理しきれない本が山積みになっている。
廊下を抜けて、ベランダ側は十畳ばかりのリビングダイニングで、座卓にデスクトップパソコン、独り暮らしには贅沢な37インチ液晶テレビ、反対側の壁は天上まで本棚で、仕事に関わる専門書から、青年向け、少年向けコミックまである。これは少年のための餌であると同時に、私の仕事の資料でもある。現代文化論、アニメーションやコミックは私の研究の中心テーマの一つだ。それから部屋の中央には私の好みでテーブルではなくこたつ。
イスとテーブルより座布団と座卓を好む私は、このリビングダイニングで寝る以外の大概の時間を過ごす。仕事も座卓のパソコンに向かうか、こたつで本を読むなり書きものをするなり、だ。
幸一はきょろきょろとあちこちを見回していた。とくに興味を惹いたのは壁一杯の書架らしかった。本に興味がなくても、一般的な家庭の子供から見れば、なかなかインパクトのある光景ではあるだろう。ともかく、緊張のしすぎから、少しは抜けだしてくれたかな。私は横からちょいと彼の頭をつついてやる。びくっとした必要以上の反応。こういうスキンシップは苦手なタイプかな。しかし私は、押す方の選択をする。幼時にふさわしいだけの身体的精神的な保護者との関わりを欠いた場合、例えば中学生くらいになっても、異常な甘えん坊であったりする場合と、異常に強い警戒心でもって、庇護者たる大人や年長のものと距離をとろうとするような、まあ、強く言えば「歪み」を抱えてしまう場合がある。幸一は後者ではないかと考えたわけだ。であれば、私は彼の、本当は欲しくてたまらない庇護者となることを目指す。「あの人になら甘えてもいい」というような存在を目指すのだ。
8
NIGHT
LOUNGE5060