STIGMA Side-Kurosaki Vol.1
第4章 3
幸一は養護施設に入ることになった。食事と寝床とストーブがあるだけまし、とは思ったが、他はいやなことばかりだったという。人に暴力をふるったり、いやがらせをする子の心理は、彼には理解はできたけれど、もちろん被害者になるのは願い下げだった。
この頃から彼は、自分をできるだけ目立たなく、いわば「透明な存在」に近づけようとするようになった。そうすれば誰にも傷つけられず、誰も傷つけずに済む。自分の呪われた過去を知られたら、すなわち本気で「腹を割って」人と関わったら、人は自分を嫌うだろう、と幸一は考えた。
今の「父母」が幸一を引き取った理由は、彼には未だによくわからないようだ。過去を知った上か、いや、知っていたらまず引き取らないだろうから、知らなかったのだろう、と。引き取られた時から、ケンカはしないがほとんど一緒にいることのない、結婚した意味がよくわからない夫婦だったという。
今の母親は食事も作ってくれないし、小遣いもくれない。服は買ってくれるが、サイズが合ったのを勝手に買ってきてくれるだけで、買い物に連れて行ってもらったことはない。おもちゃも買ってもらっていない。誕生日やクリスマスのプレゼントもない。洗濯は全部、クリーニング屋に出す。自分の部屋と風呂の掃除は幸一の役で、あとの部屋の掃除は、家政婦が土日以外の一日一時間ほどだけ来て、やっていくらしい。
これでは彼が、誰に対しても心を閉ざすようになったのも当たり前だ。今も生きていくための衣食住はあっても、彼には愛も庇護も不足している。不足しているどころか、かけがえのない存在として愛された記憶などまるでないような、そんな運命だった。
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NIGHT
LOUNGE5060