STIGMA Side-Kurosaki Vol.1
第2章 1
「本はちょっとおいておこうか。何か飲む? ジュースは今、りんごジュースとコーラだな。あったかいのがよければ、紅茶淹れるか」
彼はまた、言葉での意思表示ができないようだった。
「おじさんは紅茶にしよう。幸一は紅茶嫌い?」
幸一はただ首を振る。Noのサインはこの場合どちらの意図かわかりにくい。
「正直に言いなさい。幸一はせっかくのお客さんだよ。おじさんは幸一によろこんでほしいんだから」
呼び捨てとやや強要の意思のこもった口調は、意図的なものだ。幸一は受け入れるか。幸一は「……コーラ」とぼそぼそ声でやっと答えた。私はその彼の頭を、笑顔で強く撫でた。拒絶のサインはわずかも返ってはこなかった。私のペースだ。
こたつ(もちろん今は春だから布団はかかっていない)で、紅茶を淹れる私を待つ幸一。律儀にコーラに手をつけずに。温かい紅茶を持って幸一の斜め横に座った私は、「幸一は礼儀正しいなあ。飲んでてよかったのに」と笑顔でほめてやり、乾杯のように紅茶のカップをさし出すと、彼も水滴のいっぱいついたグラスを持ち上げた。その時、初めて幸一は、私に、ほんの一瞬だが、屈託のない、素直な笑顔を見せてくれた。
「まだ時間あるよね? ゲームする? おじさんゲームもするんだ。子供みたいだろ? 二人プレイできるやつ、何かやろう。好きなゲームとか、ある?」
「うん。あのね……」
12
NIGHT
LOUNGE5060