STIGMA Side-Kurosaki Vol.1
第2章 1
私は幸一を、和室にも案内した。あまり必要でなくなり、かと言って古本屋に出すには惜しい本が三方の棚にも収まりきらず山積みになっている。掃除も行き届かず埃が積もっていて、普通は人を入れない部屋だ。でも幸一は気に入ると思っていた。私が好きなだけ本をピックアップしたら、全部貸してやると言ったら、期待通り、遠慮を置き忘れて目を輝かせた幸一は、次々に読みたい本を選んだ。それらを二人で、どっさり抱えてリビングの隅に運び、積み上げた。
「意外と欲張りだなあ。幸一」
私はからかい節に、そう言って幸一の頭をちょんと突いた。さりげなく彼を初めて、呼び捨てにした。だが彼はそのことには気づかなかったようだ。
「……ごめんなさい」とうつむいてぼそぼそ声で謝る幸一。
私は幸一の正面に回り、しゃがんで、彼の柔らかな頬に手を当て、やや下から彼の顔を覗き込んで、優しげに言葉をかけた。
「いいんだよ。緊張が解けてきた証拠だ。幸一が楽しくなった方が、呼んだおじさんもうれしいに決まってるだろ?」
赤面し、ますますうつむき、私から視線をそらす幸一は、不器用ながら、それでも私の好意を受け入れようとしているように見えた。
11
NIGHT
LOUNGE5060