STIGMA Side-Kurosaki Vol.1
STIGMA Side-Kurosaki Vol.1
成人向完結
発行者:とりさん
価格:章別決済
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ジャンル:その他
シリーズ:STIGMA

公開開始日:2012/07/23
最終更新日:---

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STIGMA Side-Kurosaki Vol.1 第2章 1
「好きなのある? どれ?」
 幸一が何も言わないので、私は幸一の顔に息がかかるほど寄って、肩を抱いて、ますます緊張して戸惑って赤面する幸一の反応を楽しみつつ、返事を促した。ようやく彼は、すでに十二巻で完結した、最近のヒット作を指さした。
「へえ! そうか。おじさんも好きだよ。持ってるの? 全部読んだ?」
 幸一は首を振った。その仕草がやけに哀しげだった。私はわずかに胸を締めつけられるような感覚を味わう。
 このようなマンションに住み、両親ともに銀行員でマンガを買う小遣いももらえないとは考えにくい。つまらない「教育熱心」さで、幸一の両親はマンガを禁じているのか? という程度が、この時点でせいぜい、私に想像できたことだ。幸一の「本当の事情」は、私などが想像できる範囲になかった。
「無いのか……じゃ、全部貸してあげるよ。それともうちで読む?」
 喜ぶかと思ったが、彼はうつむくばかりだった。だが彼は本音を表に出せないだけなのだ。私の前では、もっと気持ちを素直に出していい。そう思うようになってほしい。ならせてやる。
「遠慮深いなあ。お隣同士で何も、そんなに気を遣うことないよ。これ描いてる人のマンガだと、他に……」
 私はいくつかの作品を指で示し、また棚に無い作品についても触れ、幸一が未読であることを前提に、内容や魅力、作者の特色、成長や変遷について、小学生にもわかる言葉を探しながら、語った。私は人にものを教えるのが好きだ。私の言葉の嵩ぶりは、聴く者をしばしば魅了する。私が質問を放つと、訥々と単語を並べるだけのような語りながらも、幸一は好きなマンガや作家について、答え、次第に自ら言葉を探して、話すようになった。恥ずかしさ故でなく、気持ちの嵩ぶり故の頬の紅潮、泳がずしっかりと私を見る目線。私は笑顔で、相槌を打つ。一つの壁を越えたと私は思った。私が越えたのか、幸一が越えたのか。おそらくそれは両方で、かつ幸一は私が越えさせたのだ。
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