蜜事-私のお父様-
第1章 暗闇の中から迫る手 1
つい先ほどまで、私はいつものように部屋で読書していた。
着替えもせず、高校の制服のまま、紅茶の入ったカップを隣に置いて。
ホットの紅茶を飲んだせいか、身体は熱く、少々汗ばんでいた。
時間は夜7時を回っていた。あと1時間もしない内に父が帰ってくる。
今日は母が外出しており、夜遅くまで帰らない。
なので父が、帰りがけに駅前の寿司屋で詰め合わせを買ってきてくれる筈だった。
一人娘だからか、父はいつも私に優しい。
今日だって、私の好きなウニが入った、特上江戸前寿司を買ってきてくれる筈だったのだ。
なのに。
本の文字を追っていたその瞬間、突然私の視界は真っ暗になった。
布のようなもので視界を塞がれている。
何が起きたのかもわからない内に、布らしきものは頭の後ろできつく結ばれた。
「目隠しされた」そう認識するより先に、私は床に押し倒されていた。
倒れた衝撃が背中に走る。暗闇の中で誰かの手が私のスカートを捲りあげ、太ももをまさぐる。
見えなくても、男の手だとわかった。
「嫌っ」
思わず声が出る。混乱した頭の中でも、男が何をしようとしているのか、これから何をされるのかはわかった。
男の手はごつごつと骨太く、ざらついた肌が私の足を這い上っていく。
耳元で荒い息遣いが聞こえ、むせ返るような男の汗の匂いが鼻に刺さる。
粘つくように濃い男の匂いの中に、かすかに感じる甘さと、優しさ。
私はこの匂いをどこかで知っていた。
2