義弟の一言で狂った私の人生
第1章 あの日
「温まるよ。」
久から差し出されたカップを、
素直に受け取った。
温められたブランデーが、
良い香りを放っていた。
飲み物で温まったからか、
少し、落ち着きを取り戻した。
気がつけば、
自宅の離れにあたる、
久の部屋にいた。
手を引かれ、促されるまま、
ここへ来たのだ。
「久さんの部屋、初めて入ったわ。」
「やっと落ち着いたかな。」
久がやさしく頬笑む。
初めて入った久の部屋は、
離れというよりもワンルーム
のそれに近かった。
本棚や机には男性の情報誌や
ファッション誌が整然とならび、
今自分が座っているベッドも、
きちんとメイキングされており、
全体的に小奇麗な印象だった。
久は向かい合うように、
デスクチェアに腰かけ、
手には同じ飲み物だろう。
温かな湯気を立てる
カップを手にしていた。
「あまり人が来ないから、こんな飲み物しかなくて。」
申し訳なさそうに、首をすくめる。
「ううん、ありがとう。」
私は、あわてて首を振った。
実際、今は何を飲んでも
同じように感じるだろう。
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