義弟の一言で狂った私の人生
第1章 あの日
「彩子さんは兄さんの何を知ってる?」
「何って・・・。」
とまどう私に、久は顔を近づけ、耳元で囁く。
「この生活に満足してないから、知りたくて今日来たんだろ。」
ゾクッとした。
今まで何も感じず、これが幸せなのだと。
自分に言い聞かせるように思っていたことが、
久に言い当てられているように感じた。
「そんなことは」
乾いた喉から、必死に言葉を紡ぎだす。
「まぁ、見てごらんよ。」
久は、そっと、茂みの向こうを指差した。
そこには、一組の男女の姿があった。
遠目からでもわかる。
見慣れた旦那の姿と若い女性の姿が、
そこにはあった。
「一彦さん。」
思わず声を荒げそうになり、
再び、久に口元を手で覆われる。
「よく、見ておくんだ。」
言われずとも、目が離せなかった。
信じていたはずの旦那が、
他の女性と暗がりで抱き合っている。
目を背けたくなるような
現実なはずなのに、
瞬きすら、出来なかった。
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