【moral】 /BL
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成人向完結
発行者:鵺央
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ジャンル:その他

公開開始日:2010/06/05
最終更新日:---

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【moral】 /BL 第4章 僕の世界。
 僕らの内緒の時間が始まって1月半も過ぎた頃、服を着ながら稔が言った。
「春ちゃん、しばらく…そうだな、一週間くらい来れなくなる」
熱気の篭った布団に素肌を預け、だらしなく伸びたままだった僕は反射的に体を起こした。一瞬目の前が真っ暗になった。僕がよっぽど不安な顔をしていたんだろう、稔は慌てて微笑むと、僕の髪に指を絡めた。
「定期試験。前回酷い点数取っちゃったからさ、今度は少し頑張らなきゃヤバイんだ」
ごめんね?と僕の顔を覗き込み稔はすまなそうに眉を寄せた。これじゃどっちが年上なんだかわからない。
「そう。別に構わないよ。姉さんは頭良かったから……お前も頑張れよ」
暗い色が滲んでいるだろう瞳を伏せ、虚勢を張った。いずれ稔は去って行く。今からこんなでどうするんだ。稔は決して手に入らない義兄の代用。束の間の恋人ごっこ。そうだろう?

 一週間は、思っていたより長かった。だが、有り余るようにも感じる時間、反して仕事は思うようには進まなかった。なにをしていても頭の中に居座っているのは深い二重の奥の真っ直ぐな瞳。大きく暖かな手、長い指。嬉しそうに、労わるように、時に切羽詰ったように僕を呼ぶ低い声。それから……笑窪。僕は気付いた。いつの間にか、僕の中の義兄は稔に摩り替っていた。僕は稔を……どう思ってるんだろう?義兄の代用品だと思っていた稔が、いつの間にか義兄本人よりもその比重を増している。あんなに欲していた義兄の姿がいつの間にかすっかり色褪せ、変わりに僕の世界に色を添えていたのは、稔だった。時間になると開かないドアを見つめ、孤独に怯えた。独りでいることに恐怖を覚えるのも、誰かに会えないことで孤独を感じるのも初めてだった。狭いはずの部屋が無限の空間のように感じられ、僕はそこで迷子になった。
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