【moral】 /BL
第7章 そして、
「お父さんは不器用で言葉の足りない人だから…春樹、ずっと寂しかったのね」
姉の言葉に素直に頷いた。一人でいるのは寂しかった。本当はずっと帰りたかった。愛されたかった。両親に愛されたかった。必要なんだって、教えて欲しかった。楽しそうに幸せそうに笑っている姉が僕は羨ましくて、妬ましかった。家族に失望した僕の前に突如現れた、新しい家族。僕はそれに希望を見出し、愛情を欲したのかもしれない。あれほどまでの義兄への執着も、それが恋慕だったのかどうか、今ではわからなくなっていた。
フェンス越し、病院への道を走ってくる制服姿が見えた。稔の通う学校の制服だ。僕の視線を追った姉も気付いたのか、一つ溜息を漏らした。立ち上がり、僕に手を差し出す。
「稔は、ホントに春ちゃんが好きなのね。春樹が死んだら自分も死んでやるって、脅されたわ。……手放しで応援するわけにはいかないけど、もう何も言わない」
姉の手を借り立ち上がると、松葉杖を両脇に挟みフェンスに背を向けた。僕の歩調に合わせてくれる、姉と並んで院内へ続く扉へと向かう。稔がやって来る前に、病室に戻れるだろうか?そんなことを考えて、自然に松葉杖が床を叩くリズムが速くなる。姉が少し困ったような顔をしてドアノブを掴んだ。
「時期が来たら、自分であの人に言いなさいね」
扉の軋む音と、姉の声が重なり大きな音と共に扉が開いた。
≪ 完 ≫
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