【moral】 /BL
第5章 崩壊。
僕らは夢中で、カチャリと玄関のドアが音を立てたのにも気づかなかった。
「なにしてんのよっ!あんたたち!!」
突然の金切り声、反射的に声の聞こえて来た玄関の方へ視線をやると、姉が蒼褪めた顔をして両手で口元を覆っていた。
几帳面な性質の姉がローヒールのパンプスを脱ぎ散らかし部屋に上がるのを、動くこともできずに見つめていた。近づいて来る姉の動きがスローモーションのように見える。半裸で抱き合ったまま固まった僕らを姉が力ずくで引き剥がし、何度も何度も僕を叩いた。床に頭を抱えて縮こまり、言い訳もできずに黙って僕は叩かれていた。だって、なにが言える?拒絶しようと思えば、できたはずだ。だけど僕は伸ばされた手を握り返してしまった。稔を、必要だと思ってしまった。会えない時間に孤独を感じるほど、愛して、しまった。
「なに考えてんのよ、実の甥に!」
「稔はまだ17なのよ?!」
「あんたなんて弟でもなんでもないっ!!」
僕とよく似ているはずの姉の顔が知らない顔に見えた。眼を吊り上げ、それこそ鬼のような顔をして僕を罵倒し、平手で叩き続ける姉。稔がもう僕の元には訪れなくなるだろうことを悟った。目の前にフィルターが掛かり、僕はどこか遠いところで、その光景を眺めていた。姉を止めようとする稔、姉は泣きながら稔を押しやり赤く色の変わった掌で僕を叩き続ける。僕は丸く縮こまり、世界を遮断した。
11