【moral】 /BL
第4章 僕の世界。
一週間後、午前中から落ち着かなかった。試験は何時に終わるんだろう、とか、もう来ないんじゃないだろうか、とか、考えても仕方のないことばかりが頭をぐるぐる巡り焦燥感ばかりが募って行った。
床に転がり時計の秒針が規則的に移動するのをぼんやりと眺めていた。16時を過ぎた頃、カチャリと軽い音と共にドアノブが回り、ゆっくりと扉が開いた。考えるより先に体が動いていた。扉の影から稔の姿が現れる前に起き上がり、玄関へ走る。僕を受け止めてくれた胸は暖かかった。
「春ちゃん?どうしたの?」
驚いたような声が頭上から降って来る。答えずにただ首を振った。何を言っていいのかわからなかったし、何を言うべきかもわからなかった。僕を抱えたまま稔は部屋の中に入り、扉を閉めた。
「すごく会いたかった」
稔の唇が僕の額に落ち、両頬を撫で、唇を塞いだ。角度を変えて何度も唇を合わせながら、焦ったように互いのシャツのボタンを外していった。顕わになった僕の首筋に、顎を滑った唇が噛み付く。僕は瞳を閉じたまま、夢中で稔にしがみ付いた。義兄の影じゃない、稔なんだと、そう思う度に胸の奥から熱いものが込み上げて来て、稔の背中に回した指先に力が入った。
「春ちゃん、痩せた?鎖骨が前より目立つ……」
浮き出た鎖骨を舌で辿りながら稔が低いトーンで呟く。そう言えば、あまり積極的に食事をしていなかったな、と稔の髪に指を絡めながら思い出した。
だけど今は、そんなことどうだっていい。会えなかった、永遠にも思えた時間を取り戻したい。袖口から腕を抜くのももどかしく、中途半端にシャツを体に巻きつけたまま床の上で二人、縺れた。
紅い花びらが僕の白い肌に散って行く。花びらが増えて行く度、僕の喉は小さく音を漏らし、体は期待に震えた。
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