神王~DANTE~ 【BL】
第1章 捜索
「崖の下で良かったな。」
のんびりとした危機感の無い声に、馬はまるで呆れているかの様に一声上げた。
不意に耳に届いた水の音。音の方に進めば、川とは言い難いが透明な水が流れる小川。
「行こう。」
上流へとゆっくりと進んで行く。進むにつれて川幅も徐々に広くなり、水量も増えて行く。どうやら主流は別の方へと流れているらしく、下流の水量の無さに納得した。
その時。
――――帰レ。
低く響く、地鳴りの様に轟く声。
――――此処は、貴様ラ下賎の輩が足ヲ踏み入れて良い場所デハなイ。
辺りを見渡した所で、何も見えない事は明白だ。人の気配も無い。
「何者か!」
叫ぶも空しく木霊するだけ。
人だけではなく生き物自体の気配がを感じない。ただ、不可思議な感覚が体を覆い尽くす。異形の生き物ではない安らぎの感覚。
同じ問いを掛けるがやはり答えは無く、再び声が響く事も無い。
「黒雲、行こう。」
声を掛けても、馬は低く唸るだけで先に行く事を拒絶する。共に歩み始めてから長く経つが、初めての事だった。
仕方がないと息を付き、馬の背から降りて地面に立つ。
「此処から動くな、いいな?」
鼻頭を撫でれば、了承の意を示す為に小さく鳴いた。
腰に刷く剣ではなく、ベルトに掛けている短剣を抜いて警戒しながら歩を進めて行く。
ざわざわと空気がざわめくのを感じる。
(招かれざる客、か…。)
轟々と激しく落ちる水の音と風の音。
進むにつれ、霧は薄まって行き、急に視界が開けた。
「な…っ。」
「え?」
つい零れてしまった言葉。カロンの視界に入って来たのは、青龍の額を洗う長い銀の髪の持ち主。
カロンの声が聞こえたのか、振り返ったその人物は髪と同じ銀の目をした、中性的な顔立ちをした青年だった。
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