神王~DANTE~ 【BL】
第1章 捜索
ジェラルドが右手を胸の高さに持ち上げ、掌を上にすると透明な丸い水晶がふわりと姿を現した。
「遠き地に息づく命の波動。神々の血を受け継ぐ命の波動。虹の橋より降りたもうた聖なる鼓動。千里映す天の瞳に希(こいねが)う。求めしは森羅万象の尊き者。地に降りたもうた世界の王。」
朗々と響き渡る声に呼応するかの様に、水晶が輝きを放ち始める。一瞬、ジェラルドの目に森が移り込んだ瞬間、水晶が粉々に砕け散った。
見えない壁がジェラルドを守り、炎がカロンを守る。
「森。」
「…そらまた大まかな…。」
「大きな滝とそれに連なる綺麗な川。紫の花が咲いてた。」
「紫の花…?珍しい花だな…調べてみるか。あんがとな、ウィリー。」
「占い代の請求は、宿舎に送っておくわね。」
立ち上がった勢いそのままに走り去ったカロンに、ジェラルドの言葉が届いたのかは分からない。
◆
――――ドドドドド…
大量の水が流れ落ちる音。
水面揺れる滝壷の中に痩躯の背中。長い銀の髪が広く水面に漂っている。その銀の髪が、白い肌を更に白く見せる。
骨の作りは成長途中の男のものだが、その体の細さや肌の滑らかさ等を見れば女のそれを凌駕する程の艶やかさがあった。
名はシェオル。
不意に流れ落ちる滝の水が盛り上がり始めた。それに気が付いた青年は、逃げる素振りを見せず、寧ろ穏やかな笑みを浮かべながら滝に向かって両腕を伸ばした。
滝を割って現れた煌く青い鱗。長大な胴体。高い滝の落ち口から、雄々しい角の生えた龍の頭が起き上がる。長躯をしならせ、龍の大きな頭が青年の広げた腕の中に擦り寄って来た。
「どうしたの、羅雫(らだ)。」
青年の問い掛けに、羅雫と呼ばれた青龍が低く唸った。
『人間共が騒いでる。金と紅の高貴な鳥が空を翔けた、と。』
「…もしかしなくても、クレア?」
シェオルの呟きに同意する様に羅雫は唸る。
『勝手に出回るから、こんなに五月蝿い事になったんだ。』
「ふふ、オレがちょっとお使い頼んじゃったから。」
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