神王~DANTE~ 【BL】
第5章 課題
溜息混じりに呟いた時、不意に周囲の空気に違和感を感じた。
強い視線を感じる。顔を上げた時。濃い闇を背負った白銀の煌きを捉え、ヒュッと喉が鳴った。
風を纏う白い虎。その背に腰を下ろすのは、白銀を纏う青年。同じ色の目が、無慈悲に見下ろしている。しかし、その口元には愉快そうな笑み。
肌が粟立つ。視線の先の誘う様な甘く芳しい花に。
何かに囚われたかの様に、手足が動かない。否、全身が動こうとする意思を拒絶する。
「愚かな人…。」
青年の声が朗々と響いた。張り上げている訳でもないのに。
「我が身を天に捧げたいか?」
傲慢でいて、尊厳。
無垢でいて、凄艶。
「あ、貴方は…〝神王〟。天に御座(おわ)すべき存在。故に、森羅万象は満ち行く。」
「愚かなる人間達は、〝我等〟の真なる望みを裏切る。故に、玉座から退いたは道理。」
「望み…?全てを制する貴方が、何を望むと言うのですか。」
「…その答え掴みし時、お前は〝我等〟の絶望を知るだろう。…〝神王〟は、既に世に不要なり。」
青年は僅かばかりの寂寞を笑みに乗せ、その姿は風に浚われた。
「望み…絶望…〝神王〟が世界に要らない存在、だと…?」
カロンの視線は未だに上空を見上げていた。
その時、肩に微かな痛みを感じ、目を向ければ満足そうな顔をした仔馬が、不思議そうな表情をしてカロンを見上げていた。
「あ、ああ…もう良いのか?じゃ、戻ろう…。」
カロンと仔馬はゆったりとした足取りで、厩へと向かう。
しかし、カロンの胸中は焦燥感で埋め尽くされていた。
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