春夏秋冬 Ⅱ
第4章 ケンカ
『見て‥、綺麗な子』
『あら、』
すれ違った二人ずれの女性の声がはっきり俺の耳には届いたけれど、当の本人は一生懸命にメニューを見つめていた。
オープンテラスなんかで食事するんじゃなかった、と心の中だけでため息をついて、悩んでる光の前髪をかきあげた。
「両方食べれば?」
光が自分の容姿に対して、いまいち自覚がないのは、人の多い所や、彼と同年代の男女が集まる場所への出入りを、俺が禁止しているせいだろう。
人との接触を制限してることについては、可哀想なことをしてると思ってる。自分の本質が、束縛に走りやすいのも最近は自覚している。 だけど、きっと改善できない。
光は綺麗な子だ。
俺が目を離せば、誰かが光に目を付ける‥。
なのに連れて歩きたくなってしまうのは、自慢したい欲求と、光は俺から逃げないと今では信じているからだった。
それに、屋敷の中に閉じこめておくには、光は少し活発な子だ。
稽古からの帰りが少し遅くなったのを、それとなく追求したことがあった。
咎めようと思った訳じゃない、だだ光の行動が気になっただけだった。
だけど、聞いても光ははっきり答えなくて、すみません、とうなだれて頭を下げた。謝られてしまうと、それ以上は追求できなくて、でも気になって師匠の所に連絡を入れた。
ことの経緯は何でもない、他の生徒さんが帰った後の片付けを、師匠の内弟子と一緒にしていただけだった。
しかし俺が連絡を入れたせいで、先方は月白家の関係者にとんだ失礼をと、恐縮した。
そして、次の稽古の日、
俺が帰宅すると光は大きな目に涙をためて睨んだ。
『なぜ、直接先生に電話したんですか?』
それは、君が遅くなった理由をはっきり言わなかったからで、ただ心配だっただけだと説明しても光は納得しなかった。
帰りが遅くなった理由を言わなかったのは、前に俺が使用人に混じって働くのを咎めた事があったからだ。内弟子さんと片づけをしてると言えば、禁止されると彼は思ったようだ。
だが、俺が連絡を入れたせいで、師匠にも内弟子さんにも片づけの手伝いを断られ、早く帰るように促されたそうだ。
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