春夏秋冬 Ⅱ
第2章 歌と花と
誘われれば付いていくほど軽かったわけでもないし、安くないつもりでいたけど、弥生様は笑って、あの頃の君は山済みの蜜柑より自分を安売りしてた、と言う。
その通りで、俺は2、3曲歌って控え目ながらも拍手を貰って舞台を降りる高揚感に浸っていて、店の中で声をかけてきた弥生様に二つ返事で付いていった。
彼は大人の男だった。
背が高くて、お洒落なプライド物のスーツを実にさり気なく着こなしていた。
王都でも1、2を争う高級ホテルに俺を連れていって抱いた。
弥生様はセックスが上手かった。
その夜、何度も何度も泣かされて、朝まで可愛がられて、当時の俺は骨抜きにされた。
弥生様も俺を可愛いと言って、俺達の付き合いは、彼の正体がバレるまで一年、遊びではあったけど続いた。
ふらっと橘の店に現れては、俺を誘い出し、時には高価な服を見立ててもらって食事をした。でも何より抱いて貰うのが好きだった。
だけど、弥生様に取って、自分が遊びなのはよく分かっていたし、彼は妻帯者だ言うことを隠さなかった。
恋人とか愛人と言うよりは、彼は人生の教師だった。
ベッドではキスやセックスの仕方を教えられ、外ではスマートな男の振る舞いを教えて貰った。
背の低いことがコンプレックスだった俺を気にするから余計に小さく見えるのだと笑い、似合う服やフッションを一緒に見て回ったりもした。
誰かに何かを習うことも教えられることも、プライドの高い俺は素直に出来なかったけど、弥生様には従順と言えるほど素直だった。
今思えば、知らないということ程恐ろしいものはなくて、俺はこの国の領主ともいえる人に、遊んでほしい会いたいとせがんだ。
舞台から降りるときに、幾つか花束を貰った。
ありがとう、と微笑んで受け取るけど、いつもならさほど興味のわかないそれらも弥生様が見てる時は違った。
誇らしげに弥生様が一人で座っていたテーブルの上に花束を広げる。
「お疲れ様、私の歌姫」
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