SITIGMA Side-Koichi Vol.1
第3章 2-1
「おじさん、お仕事だったらぼく……」
「いいからいいから。すぐ終わるよ。いつでもいい仕事だけど、キリが悪いだけなんだ」
立ち上がろうとするぼくの肩を、おじさんはけっこう強く押して、ぼくをすわらせた。それからパソコンに向かって、ぼくに背中を向けた。ぼくは迷ったけど、これで帰ったらおじさん、おこっちゃいそうに思えたし、ぼくも本当は帰りたくなかったんだ。ゲームじゃ音が出ちゃうし、せめてしずかに、マンガを読んでまとう、と思った。
ぼくはもくもくとマンガを読み進めて、おじさんも時どき、ま違った、とか一人言言うだけで、ずっとパソコンに向かっていた。三十分ぐらいして、「よし!」とおじさんがひざをたたいて立ち上がった。ぼくは読みかけのマンガをふせて、おじさんの方を見上げた。
「幸一、今日のお昼ごはんは? もうお母さん、作ってるかな?」
ぼくは首をふった。お母さんは料理をしない。少なくとも、ぼくのためには、作ってくれたことはない。今日のお昼ごはんは、五百円玉だ。
「あれれ、お母さんはお出かけかな? じゃあお昼、どうするつもりだったんだい?」
ぼくは返事に困った。細かい事情は言えないし……。
「今日はどこかで、お弁当買って、食べようかな、って……」
うまくしゃべれない。ぼくはうつ向いてしまう。
「じゃ、うちで食べればいい」
ぼくは「えっ」と声に出して、顔上げておじさんの顔を見つめてしまう。
「作るのは手伝ってもらうよ。だから気をつかわなくていい。そんないいもんじゃないしね」
おじさんはにっこり笑ってそう言った。ぼくはまたうつ向いた。
「料理って、ぼく、できないから……」
「料理ってほどのもんじゃないよ。冷ぞう庫にのこってる野さいと焼きぶたとごはんで、チャーハンかな。あとは昨日ののこりのみそ汁。おじさんの言う通り手伝ってくれればいいだけだよ、まず手、洗おうか」
15
NIGHT
LOUNGE5060