SITIGMA Side-Koichi Vol.1
第2章 1
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時間はすぐにたって、七時を過ぎて、「晩ごはん、食べていくか」って言われたけど、さすがにことわった。マンガとか本を借りて帰ろうと思ったけど、もちろん全部もてる数じゃなかった。
「一冊だけ、もって帰りな。それ返しに来て、また借りればいい。何回も言うけど、うちで読んでもいいよ。おじさんがひまなときに、一人で目の前で本読まれてもさびしいけど、仕事してる時なら、逆に好きなだけ本を読んで、一人でゲームしてもかまわないしね」
何でこんなに、おじさんはぼくにやさしいんだろう。他人なのに。ただおとなりなだけなのに。ふしぎだったし、何だか後で、かわりに悪いことがありそうな気がして、こわかったけど、ぼくはどうしても、おじさんの部屋に遊びに来るのをこれっきりにはできなかった。一冊だけ本を借りれば、明日には返しに来られるし、来なきゃいけない。そうしたらまた、おじさんはぼくを家に入れてくれるかもしれない。今日だけの気まぐれで、今日の、いつもと違ってしまったぼくを、おじさんがきらいになったんじゃ、なければ。
マンガ本一冊なんて、あっという間に読み終わってしまう。三冊くらい借りればよかったって、読み終わって思ったけど、どっちみち明日、行くんだ。続き、借りるんだから、かまわない、と思ってふとんに入った。ごはんは一人で食べたし、それからぼくはトイレとおふろに入るのに部屋を出ただけで、一度もお父さんともお母さんとも顔を合わせなかった。玄関のドアの音なんかで、二人がどっちも九時くらいに、もちろん別別に帰ってきたらしいって、わかっただけだった。
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NIGHT
LOUNGE5060