SITIGMA Side-Koichi Vol.1
第2章 1
「へえ! そうか。おじさんも好きだよ。もってるの? 全部読んだ?」
ぼくは首をふった。また少しかなしい気もちになった。
「ないのか……じゃ、全部かしてあげるよ。それともうちで読む?」
ぼくはうれしかったし、読みたかった。けど、返事できなかった。
「遠りょ深いなあ。おとなり同士で何も、そんなに気をつかうことないよ。これかいてる人のマンガだと、他に……」
おじさんはマンガにとてもくわしかった。ぼくはやっと、そのマンガのどういう所が好きで、とかいう話を、おじさんにきかれるままにだけど、話すことができた。こんなにしゃべったこと、生まれて初めてだった。だんだんぼくは、こうふんしてきていた。一人で思うだけで、だれにも話さなかったことを、おじさんに話す。おじさんは笑顔で、聞いてくれた。いつの間にかおじさんをこわいと思わなくなっていた。
おじさんはぼくを、たたみの部屋にもあん内してくれた。そこはうちと違って、本だらけ。マンガも一ぱい。リビングと違って、かなりちらかっていたけど、ぼくには宝の山に見えた。大人になったら、好きなだけ自分の本やマンガを買って、家におけるようになれたらいいな、とか思った。
ぼくは読みたいこうほのマンガや本を一ぱい選んだ。いろいろ、マンガの話、しながら。おじさんとぼくでそれを、リビングのすみに運んで、つみ上げた。
「意外とよくばりだなあ。幸一」
おじさんはまた、ぼくの頭をちょんとついた。ぼくは赤くなったと思う。
「……ごめんなさい」
ぼくがうつ向いてぼそぼそあやまると、おじさんはしゃがんで、ぼくの正面に回り、ぼくのほおに手を当てて、ぼくの顔を下から、のぞきこんで、言った。
「いいんだよ。きんちょうがとけてきたしょうこだ。幸一が楽しくなった方が、呼んだおじさんもうれしいに決まってるだろ?」
そう言われて、ぼくははますます、顔が熱くなった。おじさんはやさしい。こんなにやさしくされたのは、ぼく、初めてだった。だれにでもやさしい人なんだろうか。だったら何で、ぼくは最初この人を、こわいと思ってしまったんだろう。
10
NIGHT
LOUNGE5060