僕と彼女のビート
第1章 僕たちの出会った日
僕たちがア・ハードデイズ・ナイトのアルバムの中から、好きな曲を口ずさみはじめてしばらく経った頃、目の前に大きな建物が現れた。
近づいてみると、かすかにファンが回る音と慣れない独特の匂いがした。
「これは染料か何かの工場だよ、きっと」
僕たちは手を繋いで建物に向かった。
河はずっと続いていたが堤防の道がそこで途切れていたからだ。
僕たちの話し声は建物に反響してあちこちからこだまになって返ってきた。
真っ暗やみの中で、ポツポツと光るオレンジ色の灯りを頼りに、僕たちは先へ進んで向こう側に抜けられないかと出口を探した。
僕たち以外の誰かの足音や声は何も聞こえなかった。
ただ、あまりに誰もいない場所に来ると、誰かに見られてやしないか、誰か潜んでやしないかととすごく考えてしまうのだ。
僕はいきなり目の前に作業着の男が現れて、マーシーをさらって行ってしまうところを想像してみた。
それか、歩いているところを後ろからナイフで刺されるとか。
または、いきなりパトカーに囲まれれて、制服の警官に僕たちは羽交い締めにされるとか。
しかし、建物の敷地外への出口はものの5分と経たないうちに見つかった。
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