僕と彼女のビート
第5章 僕の喪失、彼女の心
「ブライアン…。どこにも居ないから心配だったのよ。いつの間にか印刷所を辞めているし、バーにも来ないし、一体どうしちゃったんだろうって。」
「ああ。僕なら心配いらないよ。」
僕はルーシーを立ち上がらせて「中に入れば?」と言ってドアの中に案内した。
真っ暗な室内の電気を付けると、いつもの殺風景な空間が目の前に現れる。
ルーシーは遠慮の素振りも見せずにベッドの縁にいきなり腰を下ろして頭を抱えた。
僕はほんの少し残っていたパックのブラックコーヒーをルーシーに手渡した。
そして、今までの経緯を簡単に話そうとしたが、先にルーシーの方から話し始めた。
「私、幸せになることが許されていないのかも。」
突然の言葉に、僕は戸惑ってしまった。
「いきなり、どうしたのさ。何があったんだい」
明るい場所でルーシーの顔を見ると、いつもとは明らかに様子がおかしく泣き腫らしたような目をしていた。
「どこから話し始めたらいいか分からないわ。
…私、ブライアンに会っていない間にバーで知り合った男の人と付き合うことになったのよ」
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