僕と彼女のビート
第5章 僕の喪失、彼女の心
「…中学を卒業したら、親父の仕事を継ぐことになってたんだ。だから別の仕事とか、進学は考えたこともなかった。
それが、知らない間にこんな風になってさ、そりゃあ、何かかっこいいことをしてやりたいとは思うけど。
例えばギターと歌とかね。ただ自分ではそんなにずば抜けてるわけじゃないと思うし。
なんだか、今の自分のこと以外はよく分からないよ。」
一息に話して、僕はまた新しい煙草に火をつけた。
ジェニーは僕の顔を見つめている。
そして言った。
「…いろんなことができるのに。」
僕は言った。
「なぜいろんなことをする必要がある?僕はどうしたって給料も上がらないただのブルーワーカーさ。仕事に行って家賃を払って、あとはでたらめだよ」
ジェニーは僕の煙草を手から取り上げて灰皿に押し付けた。
「煙草の吸いすぎでインポにでもなったのかしら」
ジェニーは続けて言った。
「そりゃあ私たちはろくでなしかもしれないし、今は日銭を稼ぐのがやっとかもしれない。どうにもならないと思うことだってあるはずよ。
だけど、何も夢をみないなんてつまらない。戦う前から戦意喪失なんて。
どうせ何もないのなら、これから先なんてどうにでもなるわよ」
ジェニーがこんなに話しているのは初めて見た。
「『人生はお祭りだ』よ。」
「何、それ」
「フェディリコ・フェリーニの映画に出てくる言葉。今はお金がないかもしれないけれど、少し余裕ができたら映画も音楽ももっと知らないとね」
そのあと僕たちはまたいつもみたいにくだらない話を少しして、何杯かのお酒と食事を注文した。
僕はジェニーの奢りで大きなハンバーガーを初めてナイフとフォークを使って食べた。
僕たちは満足して店を出た。
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