僕と彼女のビート
第5章 僕の喪失、彼女の心
バーの扉を押そうとしたが、開かなかった。
店内は外からは見えないつくりになっているが、どうやらこの様子では営業していないらしい。
僕はドアの前に座り込んでタバコに火をつけた。
「今日はマスター、用事でお休みだって。」
頭の上から聞き覚えのある声が降ってきた。
僕は思わず顔を上げ、声の主を確認した。
ジェニーだった。
「久しぶりね。最近ずっとブライアンが来ないからってルーシーもみんなも心配してたのよ。」
「3週間くらいかな?連絡しなかったのって」
「とりあえずどこかで飲みましょうよ」
ジェニーはタバコをくわえたまま僕の腕にそっと自分の腕を絡ませ、先へ進もうとした。
「どこかって、どこへ」
「どこだっていいじゃない」
通りの多い街の人ごみの中、僕たちは腕を組んで歩き出した。
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